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【「エレファント・マン」評論】今年40周年を迎えた、妥協なきリンチ映画にして普遍的傑作

2020年5月23日

  •  新型コロナウイルスの影響により、多くの新作映画が公開延期となり、映画ファンの鑑賞機会は減るばかりです。映画.comでは、「映画.comオールタイム・ベスト」(https://eiga.com/alltime-best/)に選ばれた、ネットですぐ見られる作品の評論を毎週お届けいたします。今回は「エレファント・マン」です。


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     デヴィッド・リンチの出世作「エレファント・マン」が、今年で40周年を迎える。実話を元にした本作は一見、ストレートで感動的なドラマとしてこの監督のフィルモグラフィのなかでは異色に映るが、じつはリンチらしさに溢れた作品だ。わたしも今回久々に観直して、あらためてそのことを実感させられた。


     記憶ではホラー映画より怖かったエレファント・マンのマスクは、いま観ると、映画が進むにつれ、だんだんチャーミングにすら思えてくる。目が慣れてくるということもあるが、それ以上に、マスクの奥にあるメリックの人間性、純粋さや清らかさに心打たれるからだ。声やジェスチャーなど、フィジカルな名演技を披露したジョン・ハートに負うところも大きい。


     母親が妊娠中に野生の象に襲われたことで、極度の変形や頭蓋骨の増殖を帯び、「エレファント・マン」と呼ばれて見世物小屋でこき使われるジョン・メリック。そんな彼の噂を聞きつけ、ロンドンの高名な医者トリーブス(アンソニー・ホプキンス)が研究のために彼を引き取る。病院の特別室をあてがわれ、初めて人間的な生活を送るメリックは、トリーブスを「僕の友だち」と呼ぶようになるが、そんな純真な彼を前にしてトリーブスは、自分も彼を利用する連中と同類ではないかと悩み始める。


     モノクロの実験的な映像、夢のシーンにおける怪奇な描写、そして疎外された者に寄り添う視線は、リンチの初監督作「イレイザーヘッド」と共通する。エレファント・マンのごつごつとした皮膚感は、「イレイザーヘッド」に出てくる“おたふく娘”にそっくりだ。リンチは当初、エレファント・マンのマスクを、自身で造ろうとしていたという。だが、生身の俳優に着用させるには技術的スキルを必要としたため、「スター・ウォーズ」などに参加していたクリストファー・タッカーに依頼することになった、というエピソードは、この監督のクリーチャーに対する執着の深さを物語っている。

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